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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)11678号 判決 1999年5月28日

原告

上原亜由美

被告

武市雅幸

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、金七四万六六二七円及びこれに対する平成一〇年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自、金二七八万二四〇七円及びこれに対する平成一〇年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件事故)

(一)  日時 平成七年一〇月六日午後四時五五分ころ

(二)  場所 大阪市港区三先一丁目一〇番一七号先路上

(三)  加害車両 被告武市雅幸(以下「被告雅幸」という。)運転の普通貨物自動車(なにわ四四り五五一一)

(四)  被害車両 原告(昭和六二年一〇月二三日生。当時七歳)運転の足踏式自転車

(五)  態様 被告雅幸は、右日時場所において、加害車両を運転して、交通整理の行われていない交差点を南から北に向かい進行中、折から左方道路から同交差点に進入してきた原告運転の被害車両を自車前部に衝突させて、原告を被害車両もろとも路上に転倒させた。

2(責任)

(一)  被告雅幸は、本件事故当時、加害車両を運転して、本件事故現場である交通整理の行われていない交差点に差し掛かった際、同交差点の手前に駐車している車両があり、左方の見通しが悪い状況にあったことから、このような場合、自動車運転者としては、一時停止または徐行して左方道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と進路遠方の交差点を望見して時速約三〇キロメートルで進行した過失により、折から左方道路より駐車車両の陰から西から南東に向かい右折進行してきた原告運転の被害車両をわずか左前方約八・〇メートルの至近距離に迫って初めて気付き、あわててブレーキをかけたが間に合わず、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、本件事故による原告の損害を賠償すべき義務がある。

(二)  被告株式会社武市商会(以下「被告武市商会」という。)は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故による原告の損害を賠償すべき義務がある。

3(受傷、治療経過、後遺障害)

(一)  原告は、本件事故により、急性硬膜外血腫、頭蓋骨骨折、左下肢打撲の重傷を負い、本件事故日から平成八年九月一八日の症状固定日まで、医療法人寿会富永脳神経外科病院(以下「富永脳神経外科」という。)において入院加療合計三九日間、通院加療合計三一〇日間(実通院日数二〇日以上)を要した。

(二)  原告は、自賠責保険における後遺障害の事前認定において、「鶏卵大面以上の癒痕」に至っていないとして非該当とされたものの、後遺障害として、頭部に一〇センチメートル以上の手術痕が残った。

4(損害)

(一)  治療関係費 二七四万九五九〇円

(二)  付添看護費 二五万五〇〇〇円

(1) 近親者入院付添 一日五〇〇〇円、三九日間

(2) 近親者通院付添 一日三〇〇〇円、二〇日以上

(三)  入院雑費 五万〇七〇〇円

1300円×39日=5万0700円

(四)  慰謝料 三一〇万円

原告は、本件事故により急性硬膜外血腫、頭蓋骨骨折、左下肢打撲等の重傷を負ったばかりでなく、後遺障害として頭部に一〇センチメートル以上の手術痕が残り、そのことが原因で、通学する学校でいじめにもあい、女児でもあることから、将来の不安は大きく、その精神的苦痛は甚だしい。

これを慰謝するためには、少なくとも傷害慰謝料として二一〇万円、後遺障害慰謝料として一〇〇万円が相当である。

(五)  弁護士費用 三〇万円

よって、原告は被告らに対し、民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償の内金請求として、各自、金二七八万二四〇七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年一一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、被告雅幸に一時停止または徐行義務があることは否認し、その余は認める。

3  同3のうち、通院加療日数は否認し、その余は認める。

通院期間は三三二日、実通院日数は一一日である。

4  同4(一)は認める。

同4(二)は二二万八〇〇〇円の限度で認める。

5000円×39日=19万5000円(入院付添)

3000円×11日=3万3000円(通院付添)

同4(三)は認める。

同4(四)は知らない。

入通院慰謝料は七五万円が相当であり、醜状痕等を考慮しても慰謝料は合計一〇〇万円を超えないというべきである。

同4(五)は知らない。

三  抗弁

1(過失相殺)

(一)  本件事故現場は、交通整理の行われていない変則十字路交差点であり、T字型交差点に近いものである。

(二)  原告進行道路には本件交差点手前に一時停止の標識があり、かつ、本件事故当時、原告進行方向右角には駐車車両が存在して右方向の見通しが悪かったのであるから、右方向からの車両の進行を確認したうえ、車両の進行がある場合には、その車両の通過を待って交差点に進入すべきであり、また、足踏式自転車は、道路交通法上は二段右折が定められており(三四条三項)、右折進行するときは、道路の左側端に寄り、かつ、交差点の側端に沿って進行しなければならなかったのであるから、原告にも四〇パーセント相当の過失が認められる。

2(損害填補)

任意保険(治療関係費) 二七四万九五九〇円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

原告は、当時七歳の児童であり、一時停止線において一時停止し右方を確認したうえで進行していること、被告雅幸に著しい前方不注視があることからすると、原告の過失はせいぜい一五パーセントまでというべきである。

2  同2は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)、2(責任)は当事者間に争いがない。

なお、後記認定のとおり原告進行道路には交差点手前に一時停止規制がなされていたものではあるが、加害車両進行道路は優先道路ではなく、加害車両進行方向から左方(原告進行道路)の見通しが悪かったのであるから、被告雅幸には、一時停止義務はないものの、徐行義務があったものである(道交法四二条一号)。

二  請求原因3(受傷、治療経過、後遺障害)

1  原告が、本件事故により急性硬膜外血腫、頭蓋骨骨折、左下肢打撲の重傷を負い、富永脳神経外科において合計三九日間入院加療を受けたこと、平成八年九月一八日症状固定したこと、自賠責保険の事前認定において後遺障害は非該当と判断されたこと、頭部に一〇センチメートル以上の手術痕が残ったことは当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に証拠(甲二、三、乙一ないし一一の各1、一〇、一一)によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、本件事故後社会福祉法人大阪暁明館病院に搬送され、意識障害(傾眠状態)、左急性硬膜下血腫があり、手術のために富永脳神経外科に転医した。

(二)  原告は、富永脳神経外科において、次のとおり入通院治療を受けた。

(1) 平成七年一〇月六日から同年一一月二日まで二八日間入院

(2) 平成七年一一月三日から同年一一月三〇日まで通院(実通院日数五日)

(3) 平成七年一二月一日から同月一一日まで一一日間入院

(4) 平成七年一二月一二日から平成八年九月一八日まで通院(実通院日数六日)

(三)  原告は、平成八年九月一八日症状固定し、本件事故により、頭部(頭髪の生え際付近で頭髪に隠れる部分)に長さ二九センチメートル、幅二・五センチメートル及び長さ一・二センチメートル、幅一・二センチメートルの手術痕が残った。

三  請求原因4(損害)

1  治療関係費 二七四万九五九〇円

当事者間に争いがない。

2  付添看護費 二二万八〇〇〇円

前記認定のとおり通院実日数は合計一一日であるから、付添看護費は被告らが認める合計二二万八〇〇〇円が相当である。

3  入院雑費 五万〇七〇〇円

当事者間に争いがない。

4  慰謝料 一五〇万円

(一)  入通院慰謝料 九五万円

前記認定の原告の傷害の部位、程度及び入通院状況からすると、原告の入通院慰謝料は九五万円と認めるのが相当である。

(二)  後遺障害慰謝料 五五万円

原告の後遺障害(頭部の手術痕)は、後遺障害等級には該当しないものの、原告が女児であることを考慮すると、これによる慰謝料を認めるべきであり、後遺障害慰謝料は五五万円をもって相当と認める。

5  以上合計四五二万八二九〇円

四  抗弁一(過失相殺)

前記争いのない請求原因1(本件事故)及び2(責任)の事実に証拠(甲四ないし七、八の1ないし3、一二、原告本人)を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、幅員六・七メートルの歩車道の区別のある南から北に向かう一方通行の道路(以下「南北道路」という。)に西からの幅員六・〇メートルの一方通行道路(以下「西側道路」という。)と東に向かう幅員六・〇メートルの一方通行道路(以下「東側道路」という。)がはすかいに交差する交通整理の行われていない変形の交差点(以下「本件交差点」という。)であり、南北道路は最高速度を時速三〇キロメートルに制限され、西側道路には本件交差点入口に一時停止規制がなされている(別紙現場見取図を参照。以下地点を指示する場合は同図面による。)。

2  被告雅幸は加害車両を運転して、南北道路を南から北に向かい時速約三〇キロメートルで、本件交差点の北側に存する三先一丁目西交差点の対面信号機を見ながら進行していたところ、西側道路から東側道路に向かい東西道路を横断しようとした被害車両が駐車車両()の陰から出てくるのを<2>地点で左前方約八メートル(<ア>地点)に発見し急ブレーキをかけたが間に合わず、被害車両に加害車両右前部を衝突させ(<×>地点)、原告を被害車両もろとも転倒させた。

被告雅幸の方からは建物及び駐車車両により西側道路の見通しは悪かった。

3  原告は、西側道路を東に向かい被害車両に乗って進行し、本件交差点手前の一時停止線手前で一時停止したが、進行方向右側の南北道路に駐車車両()があったことから、南北道路の車両の動向を確認することはできず、そのまま駐車車両の直前から東側道路に向かい南北道路を斜めに横断しようとして加害車両と衝突した。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に認定の事実からすると、原告にも南北道路の車両の動静に注意して横断すべき注意義務を怠ったこと、南北道路を斜めに横断しようとしたこと、駐車車両の陰から横断を開始したことの過失があるというべきであり、被告雅幸に徐行義務違反及び前方注視義務違反があること、原告は本件事故当時七歳の児童であったことを考慮しても、原告について、二五パーセントの過失相殺をするのが相当である。

すると、前記認定の損害額四五二万八二九〇円からその二五パーセントを控除すると、三三九万六二一七円となる。

五  抗弁2(損害填補)(二七四万九五九〇円)は当事者間に争いがないから、これを前記三三九万六二一七円から控除すると、残額は六四万六六二七円となる。

六  弁護士費用(請求原因4(五))

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一〇万円と認めるのが相当である。

七  よって、原告の請求は、金七四万六六二七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年一一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉波佳希)

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